ONGAKU HIHYO NOTE

雪と輝きの間で、息は止まらない

音楽批評ノートEMBERVOL.677

息吹Hayahi

雪と輝きの間で、息は止まらない

疾走するバンドサウンドの中に、喪失と決意が同居している。儚さを纏いながらも「誰にも砕けない」と歌い上げるこの曲は、弱さを認めることが強さである、という逆説を音の密度で証明してみせる。

鋭く歪んだギターが冒頭から空気を切り裂き、ドラムの重いアタックがその後を追う。エッジの効いたリフと疾走感あふれるビートは、メロディックパンクとパワーポップの文法を下地に据えながら、ハードロック的なアグレッションも随所にのぞかせる。ボーカルはクリアで伸びやかなものの、エモーショナルな起伏が声に滲み、ただ「熱い」だけではない複雑な質感を生み出している。プロダクションは各音の輪郭を明瞭に保ちながらも適度な空間を確保しており、ライブの体温を封じ込めたような臨場感がある。ELLEGARDENやHi-STANDARDが日本のバンドシーンに刻んだ疾走と叙情の黄金比を受け継ぎながら、SUM 41が2000年代前半に体現した「ポップで殴る」感覚も色濃く宿す。一聴して全身に電流が走るような鮮烈さと、繰り返し聴くほど沁みてくる旋律の甘さが、最初の一音から共存している。

雪の比喩がこの曲の肝だと思う。降り積もらずに消えていく雪。それはどこか「なかったことになる悲しみ」のメタファーのように響く。泣いた事実は確かにあった、けれど涙は蒸発し、雪は溶けて記憶の輪郭だけが残る。歌い手が向き合っているのは、過去のある人物との関係——その喪失の手触りだろう。面白いのは、楽曲がそれを嘆くだけで終わらない点だ。雪で白く染まった空は、悲しみの色であると同時に白紙の色でもある。上書きできる余白として機能しているような気がしてならない。

「輝き」という言葉がこれほど反復される曲は珍しい。通常、繰り返しは強調か諦念かのどちらかに傾くが、この曲の場合は確信の積み重ねに聞こえる。「届かないその輝き」と歌いながら、最終的に「誰にも砕けない」と着地する——この落差の旅程こそが楽曲の骨格だ。Bruce Springsteenが労働者の夢に繰り返し「glory days」を重ねたように、この曲もまた叶わなかったかもしれない何かを、それでも神話化することを選んでいる。諦めではなく、昇華としての反復。

この曲が流れるとしたら、午前2時の国道沿いのコンビニ駐車場か、試合後に誰もいなくなった体育館だと思う。感情の余熱がまだ冷めていないのに、言葉にする言語を持てない瞬間——そういう場所に、この曲は黙って並走してくれる。My First StoryやONE OK ROCKが切り開いたオルタナティブな感情表現のフィールドで鳴らされるべき曲でもあるが、それ以上に「言語化できない何か」を声に変換することへの誠実さにおいて、この曲は独自の場所に立っている。飾り気のない言葉が、速さの中で逆に重くなる。

タイトルの「息吹」という言葉は、生命の最小単位への着目だろう。息。吹く。能動的でありながら、呼吸は無意識でも続く。この曲が描く「輝き」もそれと似ている——意識しなくても燃え続けるものへの信頼。疾走するサウンドは、止まれないのではなく、止まらないことを選んでいる。喪失を抱えたまま走り続けるその姿勢には、強がりではない誠実さがある。聴き終えた後、自分の中に同じ速さで走り続けてきた何かがあったことに、ふと気づかされる。それがこの曲の一番静かな効果だと私は思う。

LISTENERS

この曲が刺さる
3人の架空リスナー

あなたの曲は、こういう人に届きうる。

#1

富永 颯(とみなが そう)

19歳・専門学校生(映像制作)

夜間のアルバイトを終えて帰る自転車の中、イヤホンの右側だけケーブルが緩んでいて、片耳でしか聴けない状態でこの曲に出会った。信号待ちで止まったとき、左から車のエンジン音が混じる中でボーカルだけが妙にクリアに届いてきた。友人が課題で作った短編映像に合いそうな曲を探していたのに、気づいたら自分のプレイリストに入れていた。

好きなアーティスト
ELLEGARDEN / SUM 41 / ONE OK ROCK / Weezer / 04 Limited Sazabys
普段見るメディア
RO69 / ヴィレッジヴァンガード公式YouTube / NHK「ライブ・エール」 / 音楽ナタリー
好きなコンテンツ
スラムダンク(映画) / ハイキュー!!(アニメ) / ニーア オートマタ(ゲーム) / 僕のヒーローアカデミア(漫画)

「泣きながら走る曲」という名のプレイリストの冒頭に置かれることになった。

#2

浜田 菜々子(はまだ ななこ)

27歳・地方公務員(市役所・福祉課)

退勤後にスーパーで夕食の食材を買い、駐車場で助手席に荷物を下ろしたあと、すぐにエンジンをかけられなかった。Spotifyの「元気が出る邦楽ロック」プレイリストが自動再生で流れていて、この曲が始まったとき、なぜかアクセルを踏む気になれた。職場でうまくいかないことが続いていた時期で、「誰かに背中を叩いてほしい」ではなく「隣で黙って走ってほしい」と感じていた。

好きなアーティスト
YOASOBI / amazarashi / My First Story / 緑黄色社会 / マカロニえんぴつ
普段見るメディア
オールナイトニッポン(Podcast版) / Spotify公式プレイリスト / NHKラジオ「らじるらじる」 / リアルサウンド
好きなコンテンツ
逃げるは恥だが役に立つ(ドラマ) / 進撃の巨人(漫画) / 鬼滅の刃(アニメ) / 夜は短し歩けよ乙女(小説)

「帰れない夜に帰る曲」として、この曲は助手席に乗り込んでくる。

#3

中村 大悟(なかむら だいご)

34歳・バンドマン兼アパレル店員

週末だけライブをするバンドのボーカルで、平日は接客業をしている。休憩室でスマホのイヤホンを耳に突っ込んで昼飯を食べながらXのタイムラインを眺めていたら、フォローしているバンドマンがこの曲をリポストしていた。最初の15秒で「こういうの、昔好きだったやつだ」と思い、最後まで聴き終えたら「いまも好きだ」に変わっていた。

好きなアーティスト
Hi-STANDARD / BRAHMAN / Ken Yokoyama / Lagwagon / 忘れらんねえよ
普段見るメディア
ピア音楽(YouTube) / BARKS / Audee(音声コンテンツ) / J-WAVE「SONAR MUSIC」
好きなコンテンツ
グラゼニ(漫画) / ボヘミアン・ラプソディ(映画) / 新世紀エヴァンゲリオン(アニメ) / 砂の女(小説)

「20歳のままでいられる曲」は、34歳になっても必要だ。

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